春は曙、夏は宵?イエイエおいらは春も夏も宵が良いです。
2007/08/21


毎年のことですが、お盆期間中は一日も休まずに営業しております。
お盆の時は、普段とはまた違ったお客様がお見えになることが多く、
たとえば、岐阜の渓流まで遠征のついでにお寄りになられた方とか、
あるいは、いつも通販でお世話になるご常連が、出張の途中でお出でいただいたりとかで、
この時期は、遠方からのお客様で店内が賑わいます。

今回も岡山県から、通販のご常連のK様がご来店いただきましたので、
いつもはなかなかお目にかかれないご常連にお会いできて、
嬉しくなって、話しが弾んでしまいました。
通販で商品をお買いになる場合には、やはりいくばくかの不安感がつきまといますから、
ネット上の仮想店舗ではない実店舗をご覧になられて、安心なされる方も多いかもしれませんね。

そういうわけですので、お盆期間中も一日も休めません。
ただ、休みがないと体がだんだんしんどくなってきますので、
なんとか無事に定休日に辿り着くとほっとします。まぁ自営の宿命でしょうか。

さて今週は月に一度の連休ですので、
溜まった疲れは、好きな作家の絵でも見に行って癒しましょう。
残念なことに各地の美術館は月曜日休みのことが多く、
店の定休日と重なってしまうのが悔しいのですが、幸い本日は火曜日、
ちょうど岐阜県美術館で、川ア小虎と東山魁夷展を開催しておりますので、さっそく行ってみました。



おいらは日本の作家なら東山魁夷、西洋の作家ならビュッフェが好きでして、
機会があれば、できるだけ時間を作って見に行くようにしております。
とはいっても決して絵心があるわけではなく、ただなんとなく見に行って、
好きな作家の絵に慰められて帰って来るだけですので、全然たいしたことはありません。
ざらついた心の襞を優しく撫でられる、ただそれだけのことです。

東山魁夷の作品の中で一番好きなのは、一連の青の世界の中で、
1頭の白馬が木立の中でスッと立っている”白馬の森”。
ただいま長野県信濃美術館で展示されております。
この”白馬の森”、1972年の作ですから、今から35年ほど前に描かれたものですが、
若い頃に日展かなにかで拝見して、一人で生き抜く厳しさを教わりました。
どんな人生を選ぶにしても、
結局は自分一人を頼りにして生きていかなければならないのですが、
苦しい時には、自分の情けない姿と、
凛とした白い馬の涼しげな表情を較べたりしてしまいます。
あぁ、あいつはカッコイイなぁ、それに引き換え自分のだらしない姿といったら、
ホントにみっともないなぁ、などと思ったりして...。

でも何かあるたびにこの白馬の姿を思い浮かべておりますと、
なんだか少しづつ力が湧いてくるような気分になります。
お前、親はいないのかい?森の中で一人で生きているの?偉いねぇなんてね。
資金繰りが苦しかったり、
あるいは洪水で汚れた水が押し寄せてくるようなことがあったりしても、
おかげさまでなんとか頑張ってやってこれたのは、励ましてくださった多くのご常連の皆様と、
人生の早い時期に、このような優れた絵に巡りあえたからでしょうね。
ホント、感謝しております。

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今回岐阜で展示されている東山作品の中では、上の画像にある”曙”が素敵です。
春は曙、だんだんと夜の帳が消え行く山際に、そこだけポッと明るい山桜が3本ほど。
さぁ、今日も一日が始まるぞ、頑張りましょう、などと3本の山桜が励ましてくれているようです。
まぁ、絵というものは、こちらの心の持ちようによっては、どのようにも見えてしまいますから、
自分のその時の心のあり方がわかってしまって、思わず赤面してしまうのですが、
自分の精神状態を、一枚の絵を通じて他人の目でチェックできる、
それもまた絵の効用かな、などと思います。
小難しい能書きなどは一切無視してサラリと見る、そんな拝見の仕方もよろしいなぁ。
なかなかできないことではありますが...。

ところでおいらは、山桜は曙よりも宵に見るのが好みでして、
釣り終わってほっと一息、夕暮れ迫る山並みを見上げると、白く浮かび上がる山桜が1本、
あぁ、今日も一日、お互いに頑張ったね、という感じが大好きです。
先ほどの白馬と同様に、1頭だけ、1本だけというのでしたら、さらに嬉しくなってしまいます。

苦しい状況に追い込まれたとき、
本来なら金策に駈けずり回らなければならない筈なのに、いてもたってもいられなくてロッドを握る。
けれどもそんな時に限って魚は釣れない。
無常な時間が流れる中、夕闇迫る頃に何とか1匹釣って我に返ったとき、
見上げる山肌に浮かび上がる、ともし火のような山桜。
なんてことが、あったかなかったかは定かではありませんが、
宵闇に、灯火のように浮かぶ山桜に励まされたことは数知れず、いいもんですよ。
釣れなくても頑張った一日を、きっちりと終わることができますからね。

話しは変わりますが、10年ほど前にフリッカーズという名前のパターンを開発したことがあります。
フリッカーとは、研究社の辞書を紐解いてみると、flicker=希望の光、
押しつぶされそうな心にポツンとともる、小さなともし火のことです。
見るものすべてを励ましてくれる、闇に浮かんでスッと屹立する山桜。
そんなイメージで作った浅い季節向けのパターンですが、
ラストホープと同じように、他のフライをすべて無視された時の最後の頼みとして使うフライです。
ここしばらくはラストホープに助けられることが多いので、出番が少ないフリッカーズですが、
また季節が巡った時には、春の宵にでも使って助けてもらいましょう。
そんなときに山桜がぽつんと1本佇んでいたら、春宵一刻値千金、とても幸せな一日です。
おいら的には、清少納言殿には申し訳ないのですが、春は曙ではなく、春は宵が良いのですね。

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さて、好きな絵を見てすっかり満足したら、次は釣り欲も満たしてあげなくては...
というわけで、夕方の庄川にやってきました。
夏の宵の一時を狙う作戦です。
夏の宵は春の宵よりも大物のライズが出ることが多く、値万金になることもしばしば、
暑くなればなるほどに宵のお食事タイムに彼らは集中しますので、今日も期待できるかも...。
ちなみに枕草子では、夏は夜となっておりますので、この点は清少納言殿と意見が一致するところであります。
ところが、3時過ぎに荘川インターを降りたとたんに大雨に降られて、ちょっと先行きが心配です。
スキー場の手前で車を止めて辺りを伺っておりますと、幸い4時ぐらいには雨が止みました。

準備を整えて5時過ぎには入渓、周囲はまだ明るくて、ゴールデンタイムにはあと少し。
夕立があったおかげで水量が増えておりますので、状況は決して悪くはありません。
流れはこんな感じです。



入溪点から目指すポイントまでは僅かの距離しかありませんので、絨毯爆撃開始。
いつもは狙わないようなポイントにまで、すべてフライを放り込んで釣り上がって行きましょう。
流れの途中で第二世代のメイフライを見つけましたぞ、
すでに季節は秋に移ろうとしております。
そこで普段使っている#11ラストホープBOも、本日は#13にサイズダウンしてみました。
実際のところ、第二世代のメイフライは#20前後の小さなものが多いのですが、
光量の少ないイブニングでは、そんな小さいサイズを見続けることは難しいもの。
それに大物はやはり少しでも大きい餌を好みますので、#13はギリギリの妥協点となります。

1時間ほど釣り上がって、お目当ての小さな落ち込みにやってきました。
ここまでの釣果は小さいアマゴが1匹と、25cmぐらいのイワナが1匹、貧果ですな。
6時過ぎですので、まだ周囲は明るいまま。大物をその気にさせるには、あと30分は必要です。
タイミングの良いことに、もう一度雨が降ってきました。
カッパを着るほどでもなく、目の前の木立の中で雨宿りしておりますと、
10分ほどでシャワータイムは終了、ラッキーですね。

いったん入溪点に戻ってから、もう一度同じ所を釣り上がっていきますと、
先ほどとはまったく違う世界が現れるのが面白いところ。
日の光が少なくなるだけで、魚達の警戒心がこんなにも和らぐものなのかと感心してしまいます。
狙ったポイントまで釣り上がって、今度は良型のイワナを10匹ほどゲット。
お前達、いったい何処に隠れていたんだい? ついつい聞いてみたりして...。

落ち込みの手前で足を止めて、
まずはフックのポイントチェック...問題なし。
次にリーダーチェック...問題なし。
最後はフライをシャカシャカシャカシャカ、
たっぷりとドライシェイクにまぶしてから流れをじっと見続けていると、
やがてポツリポツリとライズが出始めました。

すでに時計の針は7時近くを指しております、もう大丈夫でしょう。
流れ込みのど真ん中にポンとフライを置きますと、
バシャ!
一発でヒットしました。
手ごたえから尺を越えているのが分かります。
なだめすかしてネットに入れて、写真撮影をお願いしますと、
バッカヤロー!!! イワナ様、お怒りになられました。



そ、そこをなんとか、
もう一度お願いしてシャッターを押しますと、ちょっとだけ大人しくなられました。
すかさずメジャーをあてますと31cm、大人サイズのイワナでした。



春も夏も、やはりおいらは宵が良い...
渓にもやっぱり
宵通い...ですね。