木化け、石化け
2009/06/01


釣りキチ三平の必殺テクニックに、木化け石化けというものがございます。
釣りキチ三平は人気漫画でしたので、御存知の方も多いと思いますが、
渓流で、魚に悟られないよう自分の気配を消すために、石に化ける、
あるいは木に化けてこっそりと竿を振る、あのやり方です。

初めてこの場面を見たときには、
なるほどなぁと思って、翌週から石になったり木になったりしてみたのですが、
凡人の悲しさか、結局は木にも石にも化けることができず、
殺気出しまくりで谷を歩いておりますので、敏感なアマゴもイワナもさっとこちらの気配を感じ取って、
とっととお隠れになってしまいます。
なかなか漫画のようにうまくはいきませんね。

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ところで、先日から名古屋市美術館で開催しております、だまし絵を見に行ってきました。



直前にNHKでも特集を組んで放送しておりましたので、平日の火曜日なのに凄い人だかり。
新型インフルエンザのせいで、きっと見物客は少ないに違いないとみたのですが、
歩くのもままならないほどの行列が続きまして、
人混みが大嫌いなオイラは、入館して5分でイヤんなってしまいました。

それでも我慢して見ておりますと、途中で面白いものを発見、
俄然、人混みが気にならなくなってしまいました。
面白いものとは、これこれ、歌川広重の影絵です。


江戸の庶民は粋な遊びを楽しんでいたなぁと思うのですが、
小道具をアレコレ手に持って、松に化けたり、あるいは鶯に化けたり、
それを障子に映して、化ける技を競っていたのでしょう。
こんなのを拝見しますと、具象の限界をどうやって抽象で表現するかという、
フライの世界と通ずるものがございますね。
障子は水面の膜、
水面の上に乗っかるフライは現物のカゲロウとは似ても似つかぬ姿ではありますが、
それでも魚がその気になってくれるのは、
水面に乗るフライの何処かに、生き物らしさの信号を発している部分があるのでしょう。
フライを考えた先人の知恵は、本当に素晴らしいものです。

フライフィッシングの初心者のうちは、川で現物のカゲロウを取ってきては、
いかにフライを現物そっくりに近づけるかに腐心すると思いますが、
そのうちにある日突然イヤになって、現物路線はやぁめたぁと放り出す瞬間がきます。
現物そっくりにフライを巻き上げても、
歴史のヤスリにさらされたスタンダードパターンに、どうやっても釣果が適わないのですね。
そこからが本物のフライマン人生の始まりで、
やはり抽象しかない、デフォルメじゃぁと今までの方向を一転させると、
ようやく、頭の中で遊ぶこの釣りの本質に目覚めるわけです。
古来伝承のテンカラも、必要部分をバッサリと切り落とした、抽象のかたまりのような毛鉤ですので、
テンカラを考えた方は、ひょっとしたら影絵で遊んでいたかもしれませんね。
浮世絵はずいぶん海外に流出しておりますので、
フライのイメージづくりに影絵が貢献した可能性があったかも...
などと想像を逞しくして、ちゃっかりと入館料分以上に楽しんできました。

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さて本日(6/01)、
東海北陸道の高鷲インター手前の気温計は、15時には21℃を表示しておりました。
車の中は半袖でも暑いほどですので、イブニングは充分に期待できそう。
そう思って庄川の馴染みの谷に行ってみますと、なんだかうすら寒い、おまけに風もあります。
肌寒さを感じる時は、イブニングが不発の場合もございますが、
ここまで来て戻るわけにもいきませんね。
車の中と外では、ずいぶん温度差がありますが、とりあえずやってみましょう。

流れを見回すと、アカマダラがボチボチハッチしております。
じゃぁそこでアカマダラパターンを使うかといえば、見にくいので使いません。
視認性の悪いパターンは老眼には面倒ですからね。
それにもう少しあとの時間になればヒラタがハッチしますので、
イブニングを意識して、いつもの#13のキハダをセットして、釣りあがりましょう。
アカマダラがハッチしていても、
クリームボディのフライでもちゃんと釣れるのがフライの面白いところです。
でも、それが何故そうなのか、理由がわかっていなければ釣果はあがりませんけどね。

流れに入りますと、幸い風が止んで、寒さが気にならなくなりました。
狙ったポイントにはアカマダラが流れておりますので、
イワナ達の反応もとても良くて、こんなサイズが20匹ほどヒットしてくれました。



あとは大物を出すだけですね。
暮れなずむまでのいっとき、目指す大物ポイントのちょいと手前に手ごろな岩がありますので、
その岩までそっとすり足で近寄って、まずは岩に化ける練習をします。
岩の陰から、できるだけ少ない動作で竿を振るイメトレを繰り返して、
だんだん薄暗くなってきたところでいよいよ本番、目の前のポイントにポンとフライを落とすと、
バシャ、一発で出てきました。
ところが、うっかりしていて、強引に魚をこちらに向かせることができない。
ありゃりゃ困ったなと言っている間に、相手はこの岩の下にさっと入ってしまいました。
イワナは岩魚ですので、いったん岩の中に入り込むとなかなか出てきませんね。
しょうがない、強引に引っ張り出すかと思って、ティペットを手に取ってずっと手繰っていきますと、
残念、すでにイワナ様は岩にお化けになったご様子、
何事もなくフライは手元に戻ってきて、化け較べはイワナ様の勝ちでした。
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帰り道、ひるが野のパーキングの手前の気温計は6℃しかありませんでした。
寒いせいで、魚の食いが浅かったのがバラした原因だったのかなぁなどと思ってみたりするのですが、
実は敗因は勝負の前からありまして、
通常、イブニングで大物を狙う場合には、それまで使っていた6Xのティペットを5Xに交換するのですが、
本日は石化けの練習に気を取られて、うっかりしてそのまま6Xを使っておりましたので、
ティペットをかばってしまって主導権を握れない。
これが本日の敗因ですね。
皆様もイブニングで大物を狙う場合には、ぜひ太目のティペットに交換してください。
なぁに、おらは細いティペットでも大丈夫などと思っておられますと、
見事にイワナ様に化かされますよ、どうぞご注意あれ...。